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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)167号 判決 1968年6月20日

上告人(被告・反訴原告・控訴人) 前田敦

右訴訟代理人弁護士 花房多喜雄

被上告人(原告・反訴被告・被控訴人) 船岡町農業協同組合

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人花房多喜雄の上告理由第一点について。

被上告人と上告人との間に締結された昭和二八年一二月三一日付自動車事業委託契約の対象である自動車が「THl2、1955年」、すなわち1955年(昭和三〇年)型のものであることは、当事者間に争いない事実として原審の適法に確定したところ(この判断は本件記録中の第一審の第五回口頭弁論調書およびその他本件記録に徴して正当であること明らかである)であるが、右契約に基づいて上告人が完全にその債務を履行したときに取得する自動車あるいは上告人に右契約の債務不履行があって契約を解除されたとき上告人が被上告人に返還しなければならない自動車は、買い替え等の事情が生じて買い替えられたときには、右取得あるいは返還の事由が生じたときにおける買い替えられた自動車を意味するものであることは、原判決自体からうかがうことができ、そして、原判決を通覧すれば、昭和二八年一二月三一日付右自動車事業委託契約の対象である自動車は、結局右契約後において原判決のいう本件自動車に確定したものであることがうかがわれる。そうとすれば、上告人が右自動車事業委託契約においてまだ製造されていない自動車について事業委託契約がされたという不能な事実を自白したものではなく、自白は内容的にも有効であるといわなければならない。所論は、原審が上告人において自白したものとして確定した事実と異なる事実に基づいて原判決を非難するものであるが、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点(一)について。

原判決は、当時被上告人組合の事業の一部ではあったが、独立採算制のもとに上告人が専らその運営にあたっていたので、被上告人は上告人が被上告人のため立替え支払った自動車代金を上告人に返済することを「自動車運送事業のため支出してその支払にあて」と表現したものであることが、原判文からうかがわれる。したがって、所論は原判決の趣旨を正解しないものであり、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点(二)について。

原判決が一五〇万円の支出をしてこのうちから被上告人の上告人に対する一〇五万円とその利息の立替金債務の弁済にあてたと認定したものであることは、原判文上明らかである。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点(三)について。

所論の点についての原判決の趣旨が事後処理についての認定であることは原判文上明らかである。したがって、これと異なる見解に立つ所論の理由のないことは明らかである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第三点(四)について。

所論は原審が適法にした事実認定を非難するか、原審の認定しない事実に基づいて原判決を非難するものである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。<以下省略>

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

上告代理人花房多喜雄の上告理由

第一点原判決には、理由齟齬の違法がある。

原判決は、理由冒頭において、

「昭和二八年一二月三一日、被控訴人(被上告人)は、控訴人(上告人)との間に、被控訴人は其所有の原判決別紙目録記載の自動車(以下本件自動車と略称する)の使用貸借と、控訴人の償還金支払方法及償還完済時における自動車所有権の帰属等につき、原判示の如き内容の自動車事業委託契約を締結し、控訴人に対し本件自動車を引渡したこと等は、当事者に争いがない」旨の判示をした。

けれども

(1)  控訴判決の判示した右「原判決(第一審判決)添付目録記載の自動車」は、同目録記載の通り

普通貨物自動車 一台

登録番号 鳥1-20177

車名 日野

型式 THl2、1955年

車体番号 THl2-55-72473

原動機型式 DSl2

であるが、該自動車の右型式1955年型とは「昭和三〇年型」即ち昭和三〇年度に製作された自動車であることの表示であり、車名日野とは「山陰日野ヂーゼル自動車株式会社」が製造販売したことの表示であることは一点の疑もない。

従て、原判決の認定した、上告人、被上告人間に自動車委託事業の締結せられた昭和二八年一二月三一日には、原判示の自動車は製造年度より見て未だ製造されておらず、被上告人組合がこれを所有する筈もないのに、原審判決は、第一審判決の犯した誤謬を其儘踏襲して、右当事者間に成立した昭和二八年一二月三一日の自動車委託事業契約の目的物とした旨判断し、これを当事者間に争いのない事実と認定しているのであるが、

(2)  上告人、被上告人間に昭和二八年一二月三一日締結した自動車委託事業契約(甲第一号証参照)の目的物とした貨物自動車は、

車名 いすゞ

登録番号 鳥1-21922

型式 一九五二年式貨物自動車

車体番号 TX61 205925である。

右事実は、上告人が第一審裁判所に昭和三二年一〇月七日付を以て提出した答弁書第一項に明記しているところである。

(3)  右当事者間に、前記自動車委託事業契約を締結する以前においては、原判示の通り被上告人組合は、直営自動車運送業を経営していたものであるが、被上告人が原審に提出した昭和三七年九月一九日付準備書面第一項(一)に記載している通り、昭和二七年八月、それ迄被上告人組合が所有していた、車名「ニッサン」貨物自動車を、鳥取いすゞ自動車株式会社に、昭和二七年八月二二日見積価格金六〇万円として下取車に譲渡し、追金百五万円を支払って(この金額が、上告人の本件立替払金である)購入したのが、前項記載の車名「いすゞ」登録番号鳥1-21922の新車であり、この車輌を被上告人組合が直営事業に昭和二八年一二月三一日迄使用し、其中古車を前記自動車委託事業契約の目的物として、甲第一号証の契約が締結せられ、当時被上告人組合より上告人に其車輌を引渡したものであることは、第一、二審の当事者双方提出の前記答弁書及準備書面に照らし、明瞭であるのに、原審は、右委託事業契約締結の際に存在し且つ当事者が契約の対象として其引渡をした自動車は、前記「いすゞ自動車」と判示すべかりしを、当時存在しない「日野、型式THl2、1955年」と表示したことは、明白なる判断の誤りであると謂わねばならない。<以下省略>

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